「運命」とかいう言葉なんか知ったこっちゃ無い話ではあるが。
こうまで深く絡まれるとこちらとしてもイヤになってきたりはする。

あの日にあそこに足を運ぼうと思ったのも偶然だし、その電車に乗ったのも偶然。
電車の中でそれを見かけたのも偶然で、それが知ってる人だったのもまた偶然。

そして、あの出来事もまた偶然の産物から起きた出来事だった。


まあ、たった一つだけ私自身が創り上げた偶然ではあった訳だが。
漫画みたいな出来事が実際に起こってみてもいいんじゃないか、とか。


『Only doubles』#1 ...萌迦Side



原稿も一通り済んだ事だし、たまにはアキバの方にでも出ようと思った。
済んだと言っても別に終わった訳でも無いが
気分と流行の入れ替えが必要だ、と自分の中で結論が出てきたという理由を後付け。


改札、時刻表、売店、電車。
乗客は日々変わるけど駅の景色はなかなか変わるものじゃない。
徹夜明けのふらついた足取りだけど何番ホームとかはすでに足が覚えている。
着いたら適当に同人誌なりでも漁ろうかと思ってた。

車両の中を暇つぶしに見回す。
中吊りの煽り文やら広告やらは別の意味で参考になるので結構面白い


ふと目尻の端にどこかで見たような姿が入ってきた。
窓二枚挟んで隣の車両。
姿とか形の似てる「にくじゃが」の誰か。
黒姉の人達と違って各自が異なった髪型をしてるから誰かは分かるはずだが
ここからじゃ如何せん見にくい。
とは言ってもこの近辺を使う人は早々いないはずだが結構絞り込めるが。


えーと、長い髪を縛ってあって肩の辺りに垂らしてる、となれば
あれはどうやら仮名子さんのようだ。
少し前の日、真夜中に差し入れ持ってきた妙な人、という風に記憶にあった。

ま、知ったからどうだっていう話にもなる。
別に専売な訳じゃないし誰だって電車は使う。
向こうは気付いてないようだし、話しかけられでもしたら適当に応対しておこう。


っと、打ち切る前にちょっと気になること。
「話」で気付いたがどうやら向こうは誰かと話がはずんでるようだ。
一人であんな表情変わりやしないし、それを一人でやってたんならまた大変なことになる。

話し相手はどうやら男。
っていうかあれだ、俗に言う「ユーザー」だ。
にくじゃが達の間じゃずいぶんと話に入っていけなかったようだが
ユーザーの前だとけっこう積極的、というか自分から進もうって感じがしている。
何話してるかは分からないので何とも言えないが。
表情からして深刻とかそういった話じゃないだろう。

ユーザーに対するにくじゃが達の反応は3種類に分けられる。
「好き」「普通」「その他」
まあ、この分け方はにくじゃがに限った話ではないが。

どうやらあの仮名子さんはユーザーに対して好意はあるようだ。
実際にそれがどれほどのものかは分からないが。

そんな時、秋葉原到着のアナウンスが車両内に鳴り響いた。

向こうはこちらに気付いてないようだしこのまま何も見なかった事で終わらせようと思った、が。

どうやら向こうもユーザーと一緒に秋葉原で下車。
とっさに隠れて視界には入らないようにしたが。
方向が一緒なので後方にて二人を目で追う。

このまま見てても別に構いやしないのだが
一応プライベートとかいう問題もあるだろうから適度に追跡は打ち切った。
デートを邪魔する理由も無いし。

・・・アキバでデートというのもなんだが。


まあ、色々とアキバ散策はうまく行った。
詳しく書くとまた面倒なので全略させてもらうが。


手荷物も重くなった夕暮れ。
"成果"を抱えて人少なくなった道を辿っていた。

その時、ふと足が止まった。
前方に知ってる人を見たから。

ユーザーだ。
仮名子さんとは途中で分かれたのだろうか。朝とは違ってユーザー一人。
しかし様子がおかしい。
妙に焦燥しきって走ってきたばかりみたいに額は汗だらけ。
背伸びして人ごみを上から覗き見る仕草はまさしく人探しの有り様だ。

ユーザーが誰かを探している、今は一人、朝には仮名子さんがいた。
もしもだ、あの朝から仮名子さんとユーザーがずっと行動していたと仮定する。
だけども今は一人だけでいる。
しかもその片方は必死で人探しをしている。

結論。

もしかして:二人ははぐれた?

まあ、二人はあくまで別行動をとって
ユーザーはまた別の人と待ち合わせてて行動していた、という説もあるのだが。
でもそういうのって携帯の番号なりを教えてあるんじゃないか。


ま、なんにせよ関係の無い考察だ。
気付いてないみたいだし偶然にでも見かけたりでもしたら首突っ込むぐらいにしておこう。


とか思ってたのにそんな"偶然"が起こるから時々自分がイヤになる。


人気の少ない道を歩いていると聞こえたのは怒号。
厄介事でもあるかと思って脇目を見ると路地裏に男数人に女一人。
男・・・は普通と言えば普通の人か。で、女は・・・ってにくじゃがか。
しかもさっきまで思考回路を回してた仮名子さんだ。

っと、近くの壁に身を隠して様子見の態勢。
ま、路地裏でこんな複数人で平和に話し合いなんぞ始まるはずもないのだが。
双方に理由なり何なりはあるだろうし前の差し入れの恩もあるから揉め事に発展したら手出そうか。

ユーザーの疲労具合から見ておそらく大部分は見てまわったのだろう。
ここに辿りつくのも近い、そんな気がする。

私の頭の中ではすでに最良のストーリーは完成していた。
このまま揉め事が起きなきゃそれでいいが
もしもそうならなかった場合のストーリー。

出来れば発動しなきゃいいが。


耳を傾けてると『肩』だの『踏んだ』だの
今時のヤクザでも使わないような言いがかり。
それに対して仮名子さんはただ謝ったりしてるだけで弱い。
ユーザーはまだ来ない。


不思議な感情に支配されていた。
熱くて、外に飛び出て私の腕に赤い炎が巻きついてくるような気分。
炎は腕を離れて身体全てを包み込むように這い上がってくる。
これが『怒り』の感情なのは分かる。
だけど、こんなに表に出てくるような感情は初めてだ。

何故、私はこんなに怒っている・・・?

同じ「にくじゃが」が危険だから?
これを放っておいた先に見える出来事が私と同じ路だから?
それとも単に久々のストレス解消だから?

・・・仮名子さんが襲われているから?


体の中を血が駆け巡り始める。
破壊してやる、関節全て、肉体の流れ、皮膚一枚に至るまで。
肉体が壊されてあの男達が慌てふためく姿を想像するだけでもう楽しみでしょうがない。
ストレスの溜まりもあるから思いっきりやらせてもらおう。
無論、壊しはするが命は取りとめておく。

自分の手が紅く染まっていくのを確認した。
涙を流せばそれもおそらく紅になってることだろう。
もっとも、それが涙かは分からないが。


とりあえず、作業にあたり仮名子さんには眠っててもらおう。
見られるとまた厄介だし、光景を目の当たりにするのは流石に酷と言うものだ。

取り出したのは硬貨一枚。
武闘家ならともかく普通の娘ならこれで充分。

そうこうしてる内に話がどんどん発展していったようだ。
仮名子さんは壁際に追い詰められてるし男達の距離はどんどん近くなっている。
・・・ここからだと男の体が邪魔で狙いがつけられない。

男達の視線は仮名子さんに向けられてるからいいが、
仮名子さんの視線はこちらの方角だ。
飛び出した時に見られるかも知れない。


その時、一人の男の手が仮名子さんの手を掴んだ。
仮名子さんの視線が一瞬だが別の方を向いた。

この瞬間、私は思いっきり硬貨を投げつけた。
狙いは仮名子さんの喉。
額とかでも良かったが傷跡を残すのもどうかと思うので。



よし、命中。喉やられて少しチカチカするだろうがすぐに意識を失くすだろう。
詫びるつもりは無い。
危険状況の時に私が通りかかった不運と思え。
身を乗り出した時に瞬間的に目が合った気がするがまあ気のせいだろう。

仮名子さんが気を失っているのを確認。

目の前にいた人間の突然の意識喪失に戸惑うターゲット達。


開始。





最近の若いのは全くもって壊し甲斐がない。
歯はボロボロだし骨もスカスカ。
枯れ枝でも折ってたほうがまだ手ごたえがある。

とりあえず一通り完了。
ナイフもへし折ったし手首も足首も折った。
もう戦闘は出来ないだろう。
とりあえずここまでやると正当防衛も効かないだろうし一応移動はさせておいた。


仮名子さんはまだ意識が戻ってない。
そんなに強く投げたつもりは無かったが。
まあ、私の基準なんて当てにはならないものだが。


路地裏から顔を出してみればようやく遠くにユーザーの姿を確認出来た。
遅い、遅すぎる。

よし、最後のオチ開始。


走ってくるユーザーに向かってさっき拾ったアスファルトの欠片を投げつける。
二の腕に直撃し、貫通はしてないだろうが皮膚は破った。
腕から血が流れて服の袖を赤く彩る。
一瞬ユーザーが焦った顔をするが仮名子さんを探す必死さにその焦りの表情はあっという間にかき消された。


あとは私が姿を消すだけで全部のタネ仕込み終了。

ユーザーはすぐに仮名子さんを見つけ出すだろう。
仮名子さんは絡まれてからどうやって助かったのかを知らない。
見たものは『さっきまでいた男達がいなくなっていた』と 『目が覚めたらそこに傷を負ったユーザーがいる』という出来事のみ。

その二つの出来事はあっという間にくっつくだろう。
ましてや仮名子さんはユーザーに好意、少なくとも興味は持っているのだから。
ユーザーがどんなに「違う」と言ってもこの出来事について話す機会は増えるだろう。


どう足掻こうが二人は一歩進む、と。
少なくとも悪いようには進まないだろう。


我ながら遠回りにも程があるぐらいに遠回りな方法だが
私にはそういう方法しか知らない。
人と人を離すのは簡単に出来るが人と人をくっつける方法なんて知らない。
だから私のやりたいようにやらせてもらう。


全てを終え、私は全速力でユーザーと逆の道を走った。
ここで見つかっちゃ意味が無いのだから。


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後日。

情報の仕入れも終わり、適当に原稿でも描いてたら
仮名子さんがやってきて聞かれた。

「あの、赤い目をしたにくじゃがさんってご存知ですか?」


少し動揺しかけたがそこはそれ抑え込む。
やはりわずかではあるが見られてたか。

「・・・双子の人以外はみんな赤いんじゃないの?」

無論、言ってるのがそんなんじゃない事ぐらいは知っている。

「あ、いえ、そういうのではなくってもうちょっと深いって言うんですか、その・・・」

「んー、とりあえず知らない」

私が言わなければこの『赤目のにくじゃが』の存在はいずれ闇へと葬られるだろう。
これでいいんだ。


汚れ役は、私一人で充分だ。