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────どこに行けばいいのか分からない。


真っ暗で、周りが見えない。
目がいつまでも慣れてこない。

足元がおぼつかない。
砂の橋を歩いているような感じ。

あと、血生臭い。
血の海が具現化して近くにあるような臭い。



『負けた』時って、こんな感じなのかな・・・。

あれ、なんでここにいるんだっけ?


そうだ、あの日の夜・・・、確か・・・。

思い出したくない。記憶がイヤだと言っている。


でも、確かに私はあの時・・・


『負けた』のだった。


改めて口に出して認めると、『悔しい』とか『哀しい』とか。
どうしようもない感情が湧いてきた。
泣きたくなった。



「いたいた」

・・・誰?
頭に直接届くような声がする。

「待って、明るくする」

暗闇が一気に無くなった。
一条の光、いや、何十とやってくる光が一気に闇を消し飛ばしていった。
不思議なことに全然眩しく感じない。



「お帰り」

一つの部屋だった。
そこにはたくさんのヒトの亡骸、そして壁には元の色が分からないぐらいに血のシミ。
部屋の主、かどうかは分からないが中央には人がいた。

「・・・誰?」

目で見たものをすぐさま信じられるほどお人好しではないはずだが、
この光景は一様に信じられるものじゃなかった。

そして、もう一つ。

「私は、私じゃないの?」


そこにいたのは紛れも無い『私』



目も服も、何もかもを赤く染めた"活きている"自分自身の姿。


「ここに来た、って事は『負けた』んでしょ?」

"赤い私"は明るい顔でそう言った。
さっきまで、今の私が考えていた事と一緒。

「いいんじゃないの?命は失くしてないんだし。何事も経験」

何をされたか分かっているだろうに。
その言葉はどういう意味だ。

とっさに掴みかかってしまった。
考え直すと挑発に乗るなんて言う最悪の行動なのに。


一瞬でひっくり返された。
"赤い私(以下、『』)"は掴んだ手首を取ってあっという間にひっくり返したのだ。

私がいつもやってるやり方だ。



「人が負ける、って言うのはこういう心境。
 積み上げてきたものは崩れ、足下は無くなり、培ってきた全ては信じられなくなる」



体勢を崩したまま手首が締め付けられる。
別に痛くはないのだが今のとこ振り払う理由もメリットも無い。
第一、"私"であるのなら効いてない事ぐらい知っているだろう。

「だから、負けて死ななかっただけ幸運と思っておきな。
 そりゃあ、失くしたものはあっただろうけど少なくともまだ立ち直れるんだから」


なんか面白くない。

「・・・説教?」
「別に。どうせ聞いてないんでしょ」

手首が解放された。
とりあえず立ち上がっておく。

「この部屋には、そんな人達の心がたくさん集まってる。
 あんた、いや、私か。私が壊していった全ての人達の怨恨が。」


なんか、物騒な状態になっている。


そういえば肝心な質問を聞いていない。



「・・・で、あんた誰?」

いきなり出てきて手首締められて講義聞かされて。

「あんた、自分の創ったキャラに『誰?』とか聞く?普通」

なんかよく分からないが逆鱗に触れたようだ。
"創った"と言われてもそれをやった覚えが無い。

混乱してるとため息一つに首振り一つ。
どうやら呆れたらしい。

「理由は数あれどあんたはとにかく強くなりたかった。
 私は、あんたが理想とした像。言い換えれば"強さ"を身につけた人格。
 萌化流の原則忘れた?『思い込み、発現させる』でしょ?」


理想像、強さ・・・、確かにそれは求めていた。
でも、それはあくまで"思っていた"だけ。
別に人格を持つような事はやっていないはずだが。

「私はあんたなんだから人格なんか持ってるはず無いでしょ」
疑問より先に答えが来たため少々面食らった。
"私自身"だから同じ考えに至ったのか。

「それに近いものはあるけど根っこはれっきとした"萌迦"なの、」

は悲しげな顔だった。
その顔が何を表しているのかは答えが浮かびすぎて絞れない。


根っこが同じなら、この状況は何なのだろうか。
こんな差し向かいな話、むちゃくちゃだ。

「うん、おかしいって顔してるね。  理想郷っていう名の別人格がこうして話しかけてる状況だしね」

また見抜かれた。なんか癪な気分だ。


「答えは簡単。私とあんたはあまりに分離しすぎたから。
 ・・・そして、ここは心の中だし。」


なんか訳の分からない展開になってきた。
ただでさえ大変なのに人格とか分離とかいう言葉は重過ぎる。

「心の中、だから自問自答ってことかな。自分との向き合い」

自問自答・・・、なんかもうそれでいい気がしてきた。


「で、私とあんたの分離。原因は二つある」

真っ赤に染まった指を二本立てて、急にシリアスな顔。
赤はまだ新鮮で、爪の先から手首、腕を伝っていつしか床に垂れた。

「一つ、あんたは私を強く思いすぎた。」

『強く思うこと』が、萌化流なはず。

「あんたの思う"最強"はその時の自分にはかけ離れすぎていた。
 それでも、ただひたすらに頑張り続けた。気が遠くなるぐらいに長い時間かけてきた。
 長い時間は体術だけでなく性格すらも明確にし、それはいずれ自我を持ち始めた。ようは具体的になってきた、ってこと。」


なんか責められてる気がする。
でも、私は確かに常に"目標"を高くまで掲げてここまでやってきた。

もしかしてそれは・・・いけない事?

「別に責めたつもりは無かったけど・・・、どうも攻撃的になってね」

自分に謝られるって後にも先にも無い経験だと思う。


「二つ、自分を全く振り返ろうとしなかった」

・・・

「過去も未来も考えずに目の前だけ見てきた」
「ただひたすら無我夢中で進み続けていた」

なんか押されっぱなしもイヤなのでとっさに口を挟んでみた。
今度はのほうが妙な顔してた。

「自覚はしてたんだ」
「してた」


思い返せばあの日・・・、両親の事故の日から私は過去を見るのをやめた。
何も思い出したくなかった。
当たり前の光景があっという間に無くなった、あの時のことを思い出せばおそらく私は泣くのを抑えられなくなる。
強くなるために涙は邪魔だったから、だから全てを封印した。

「ところがそれが仇になった。」

ホントに何もかも見透かしてるような表情して癇に障る。
私自身だからしょうがないのは分かっているが。

「過去から目を逸らすことは昔の自分を拒否すること。
 "今"は少し経てば"昔"になる。
 だから、常に自分を否定し続けていく。
 そうなれば必然的に残るのは遠い未来、"自分がなりたい自分になる"という希望だけ。」


そして、"なりたい自分"というのが目の前にいるこの自分と。


というか本当に"自分"なのだろうか。
さっきから遠慮無しに責めてきて耳が痛い。

「ん?空いてれば急所だろうが心だろうが攻め込むのが心構えでしょ?
 その心情で私はあんたに創られた。だから肉だろうが骨だろうがザクザク抉らせてもらう。
 相手のことなど一切考えず、ただひたすら壊す。そんな戦闘を望んでたんでしょ」


望んでたんでしょ、と言われても自分でも分からない。
でも、「とにかく勝ちたい」って思っていたのは確かだった。
幸運にも萌化流にルールと言われるものは無いし、ルール無用で喧嘩売られるのも多かった。


「時々、戦闘中に自分が訳分からなくなる時があるはず。
 その時はつまり私が発動してるってこと。」


言われてみれば確かに、相手がそこそこ強いと時々自分が何やってんだか訳分からなくなってくる。

「・・・陶酔?」
「ああ、そうそう、"陶酔"」

なんとなく思いついた言葉だったが意外に的を射ていたようだ。


「あんたの存在については分かった」
理想の存在で、根っこは同じだけどほとんど別の人格、戦闘狂。
でも、やっぱりそれは"私自身"


「・・・で、これからどうすればいい?」

「勝ちたい」という思いは崩れ、「負け」を認識した。
何もかもが崩れたような感覚でここに引き込まれたのだ。
どこへ行くか、何をするかがまるで検討がつかない。

「もっと強くなりたい?」

質問に質問で返す、はともかくとしてどこか妙な所に話が飛んだ。

「どういうこと?」
「だから、強くなりたい?それとももうやめる?」

質問の意図が全く分からない。
やめるわけはないがここで前者と答えてもまた胡散臭い。


「もう二度と負けたくない、って心がまだある?」


分かりやすくしてくれたようだ。
具体的になった。


「私はあんたがもっと強くなれる方法を知っている。」


なんとなく魅力のある話な気がする。
でもまた分かりにくくなってる。

「・・・強くなれる方法?」
「そう」

本当ならそれはいい話なのだろうが。

「もう二度と負けたくない?誰にも負けない強さが欲しい?」

最初の質問に戻った。
おそらく、これがファイナルなようだ。私自身なら、だけど。
でも、突飛過ぎるし漠然としすぎている。

「自分自身を騙す理由なんて無いでしょ?私はあんたなんだから。
 もし騙されてると思っているならそれは自分への不信ってやつ」



「・・・そっか。」
他人を信じない、他人に信じられないのはいい。
だが、自分が自分を信じなくなったらあとは誰が自分を信じると言うのだ。
どうせ騙されるならいっそ自分に、だ。


「私は、強くなりたい。誰にも干渉されない、誰の影響も受けない、絶対的な強さ」

絶対的。
相対では無く、絶対。
どこに強い、どこに弱い、ではなく全てにおいて強い。
やられるとしたら同じ"絶対的"。そんな強さ。


「良かった。」

心底、安心しきった顔。
大きな仕事をやり遂げたようなそんなすっきりした顔。
私が私で見た事の無い表情。


「じゃあ、方法」

目を閉じて、少しだけ深呼吸。
そんなに度胸のいるような事言われるのかと少し身構えた。


「私を、認識して」


予想外の答えに一瞬力が抜けた。
得体の知れないことでもやるのかと思った。
よく考えたらここは心の中で自問自答らしいしそんな難しい話でもなかった。

「認識って、・・・今ここにいるとかじゃダメなの?」

「ダメ。外の世界、つまり現実世界で認識してくれないと」

また面倒な、っていうかまず"認識"とは何をすればいいんだろう。

「現実世界で「ああ、私の中に私がいるんだな」って思ってくれればいい。
 戦う時も常に『我を失わなずに"最強の自分"を考えて行動』してくれればいい。
 それを続けていればいずれ"私"は"あんたの一つ"になれるから」


なんか面倒な話になってきたがやってやれないことは無さそうだ。

「一回、全部壊して再構築すればスムーズに行けるんだけどねー。
 精神面ってのは何かと厄介で、そうやってゆっくりと癒着させていくしかない。」



全部壊すとか再構築とか、人をハードディスクみたいに言う。

「全部壊したり、とかになるとどうなる・・・?」

なんか聞くのが怖い質問だが。

「ま、精神的に良くは無いだろうね。軽くて発狂、重くてガラクタ行き」

ずいぶんと怖い言葉を発する。
ホントにこれが理想郷だったのだろうか。

「人間は心の中でならみんなヒーローになれる。
 問題はそれをどんな形であれ実行出来るか、境界線なんてそれだけだと思わない?」


「それを実体化するのが萌化流、じゃないの?」


色んなことがあった。
だけど、少しだけ楽になれた。
私がと話すことによって。


この話は誰にも話すことは無いと思う。
私自身だっていまだに信じられないし、単なる夢だったのかも知れない。

でも、確かにそこには存在していた話。

だって、私の中には確かに







がいるのだから。