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私の町には「ヒーロー」がいた。
30年前ぐらいから、夜の治安を守るとされるそんな存在が。



北欧の片田舎。
周りに比べればちょっとだけ建物が多いような街。
それでも信心はまだまだ深く、教会だって長くやってきた。

そしてまた、観光って面において一つ抜けていたところがある。


お祭りが盛大なのだ。
年に一度は全てを投じたかのような派手な祭りが行われる。観光客もそれが目的で足を運ぶのだ。

そして何より大きいのは、六十年に一度の「特別降誕祭」
この年にやるのは文字通り特別。街をあげての大騒ぎ。

伝承によってこの町にいる者の誰かが不老長寿・無限の英気を得ることが出来る、とされている。

もちろんおとぎ話のようなものでそんなに信じられてない。
この日ばかりは教会に選ばれようと祈る奴らで満杯だ。私らも手伝いでバタバタだ。





「フィル!降りてきなさい!」
「はーい」


木の上から祭りの準備の光景を眺めてたら下からシスター長の声が聞こえる。
いつも通りの光景。

「大人しくしろ」だの何だのまた言ってくるんだろうが、いつも通り適当にしておけばいい。


「またあなたは危ない真似をして!」
「はいはい」
「「はい」は一回!」
「はいはい」

さて、帰るか。説教はあんまり聞きたくない。
まだ何かキーキー聞こえてくるんだがさっさと逃げる。

「フィールギー」
「んぶっ」

後ろを見ながら走っていたらその先にいたのが神父様。
髪の毛真っ白でヒゲ蓄えてて、結構な歳してる人だ。それでも神父としてはそれほど長くないらしい。


「あまりシスター長を怒らせてはいけませんよ」
「別に」
「皆で協力してこそお祭りはもっと楽しくなるのですから」
「はーい」


まあ、そう言うんならそうするか。
ワクワクしてたのだし。祭りの準備のこの光景に。




私は親の記憶ってものがない。
養父だってのはなんとなく分かっていた。それでもなお気にしたことは無かった。

それでもなお友達が一人いた。正しい名前は覚えてないが私は「ルウ」と呼んでいた。
でかい家の娘で見た目大人しいが根は激しいタイプだったと思う。そいつには「フィイ」って呼ばれてた。

ある日の夜、ルウに連れられて廃墟に冒険しに来た。
住民は近づいてはいけないと言われたものだが子供の心にそれは逆効果だった。


そこには悪い人間がいた。粗悪な奴が。
そいつらに見つかって、私達は逃げ惑い閉じこもっていた。


もう死ぬと思った矢先に、そのヒーローは現れた。


若い男で、細身で。
筋肉質の賊どもをたった一人で大立ち回りした。華麗でかっこよくて、ばったばったとなぎ倒していった。


「娘さん、禁じられたものというのは理由がある。それは大抵の場合、危険なんだという印だ」

気付けば夜はすっかり明けてて、村の皆に囲まれてて私は助かった。
そしてすっかり惚れ込んでいた。あの時見た理想の姿に。見てるだけだった私じゃない、その姿に。

それから私は鍛え始めた。女の子らしくないなんて言われてきたが知ったこっちゃない。
大事な事を見つけたのだから。


そうやって強くなろうと喧嘩ばかりしていたら、小学校に入る前には教会へと通わされることになった。
そこからのツテで私は全寮制でミッション系の高校へと進んだ。
神をそれほど信じてた訳じゃないのだが金銭面で支援してくれるというのが決め手だったし、
それに、ルウは神への信仰心が厚かった。その一面を見てみたかったのもあったのかも知れない。



あの日から、ルウとは全く会えていない。噂によると遠くの学校へ行ったと聞いた。
あまり思い出したくない話だがあちらの親が私に会わせたくないとのことも関わっているのだろう。
ただ、手紙はたまに来るから無事なんだろう。




「良いじゃないですか」
「しかしですね神父様、シスターと言うからには」

そういう時に味方になってくれたのが神父様だ。
シスター長はよく怒るが、ほとんど右から左へと抜けていく。

「神父様は甘いのです。神様に仕える身として怪我などをされては」
「まだまだ体力の盛りです、若い内の怪我ならまだ治ります」
「怪我して医務室に向かい授業を受けないことも問題なのです」
「ふむ・・・それはちょっとまずいですね」
「神様のことを学ぶ時には別人のようになるというのにどうしてこうもけたたましくなってしまうのか・・・」

シスター長と神父様が方針について討論しあっている。挟まれてる私はどうすればいいのか。


「それでは怪我した場合は医務室に教師を派遣しましょうか」
「ぐっ」

私に出された提案はちょっとそれは困る。
言うほど怪我もしてないんだが、医務室まで行って勉強はしたくはないな。

「それがイヤでしたら少し大人しくなりましょう。いいですね?」
「分っかりました」
「フィールギー」
「はい」



「覚えておいてください。身体を使う者は頭もしっかり鍛えるべきです。
 知恵なき力はいいように使われてしまうのですから」



そこからは明日の祭りの準備だった。
祭りの前日は寝られないものだと相場が決まっていたが、何せまあ連日の作業で疲れきっていた。




「大丈夫か?」

祭具を抱えてふらふらしてる影を見つける。知り合いのシスター。
小柄の両手にはあり余るほどの量だ。自分で持ってきたのか誰かに渡されたのか。
見つけた以上は手伝ってやることにした。半分ずつなら両手にゃ軽い。

「大丈夫だったんですが・・・」
「無理するな」

遠慮がちにこちらに礼を言ってくる。迷惑かけて申し訳ないって表情で。
俯きがちな性格で髪でほとんど目が見えてないけれど。

「もう少しまっすぐ見た方がモテるぞ」
「はい、お姉さま」
「「お姉さま」はやめろ」
「成績も上ですし身体も強いですし何でも出来てうらやましいんですよ」
「いや、試験は声みたいなのが聞こえてな。それに私は従ってるだけで」

要するに、勘だ。それでもかなり当たる。私は相当運がいいんだろうと思う。
そろそろ外れて落ちてきていいはずだが。


「あー、フィル。お願いなんだけどそれ終わったらこっち後で手伝ってくれない?」
「あいよー」

今度は先輩から声かけられる。全くもってなんか色々と頼まれる。
体力があるのは随所で出してるからそういうのもあるんだろうけど。




明日に祭りを控えた夜。




夢の中で光を見た。




”世界を愛せ”




はっきりと言葉が聞こえた。




今日は身体が妙に軽い。
疲れが吹き飛んでるようだ。ここまで体調がいいってのも珍しい。
あと、左目が引きつっていた。
睡眠時間はいつも通りのつもりだったが、どこか変わったことでもあったろうか。

肩慣らしに両腕を伸ばしてみた。いつも通りだった。
そして試しに指を逆側に反らせてみた。
おかしい。限界を超えてるぐらいのはずだが痛みが無い。あっても、気持ちいい程度の刺激だ。



「・・・なんだこれ?」

鏡の中の私には、光が灯っていた。左目にしっかりと十字架のような光が。
視界には一切の影響は無いのだがなんか気持ち悪い。


私自身で解決出来るとは思えなかったのでしょうがないのでいつも通りに部屋を出る。
他の人は違和感無く付き合っていた。私だけが見えているのか?
疑問は準備の忙しさに惑わされ誰かに回答させることも出来なかった。


降誕祭の雑用はどうにか終わらせたが、どうにも違和感が拭えなかった。
どこまで走ってもちっとも息切れしない。「調子が良い」と済ませるほどではないぐらいに。
私とてさすがにおかしいと思えるほどに。


「それにより・・・、えー、血の土地というのはこうして出来たのです」

私自身も表に駆り出され普通の人達に教えについて語る羽目にもなった。
聞こえてくる声が絶好調で助かった。


かくして降誕祭は始まり、大盛況のうちに幕を閉じた。
一番体力のある奴が選ばれ「今年の英雄」と呼ばれ賞を授けられる。
後は花火が上がり大人たちは酒を飲みシスター達は祈り今年の無事を祈る。







”今夜、10時に礼拝堂に来てください。誰にも見つからず一人で”



私の部屋の扉にこんな文書が挟まっていた。
テンション上がり過ぎてるのか全然疲れも無かったのでもう一部屋片づけてきて、この時点で21時50分。
ああ、やばいな。




礼拝堂。
こんな時間なのに明かりが点いている。誰か来ているのであろう証拠だ。


「・・・誰かいるか?」


イタズラだったらさっさと帰ろうか。
居残り授業のような気がしてあまり印象が良くないのでさっさと寝たいんだ。
疲れてはいなくとも脳みそとしては眠気を求めている。


「っ!?」

私の身体に不意の衝撃が突き刺さる。


刃だ。
ナイフの。
流れているのは血の感覚で、入っている異物の正体はナイフだ。



私の視界が昇っていく。
礼拝堂の屋根を超えて更に空へ、まだまだ上がる。夜空へと。
町の景色が見えてくる。降誕祭の余波で、あちこちに光がまだ灯っている風景。


一秒ほどして。
今度は下がっていく。重力がふと湧いたかのように再び地面へと。
屋根が近くなる。衝突が過ぎったが私の体は屋根を透けていった。
そして再びまた、同じところに着地した。



礼拝堂だ。一瞬の夢でも見てたんだろうか。


血は・・・流れてない。むしろ私の身体に何も起こってない。
確かに私の胸にはナイフが刺さったはずだ。されど何も起こってない。

「何しやがんだ?てめえは」

すっきりした頭が状況を確かめる。
数多くの疑問は浮かぶが、今やるべきことは私を刺したこいつの顔を見ることだ。
どう奇跡が起こって死なずに済んだかは知らんがこれは殺人だ。


「次があなただったとは・・・驚きました」
「・・・神父様!?」


影から現れたのは、意外な人物だった。


神父様が私を刺したってのか。頭がよく分からない。
確かに私は刺されたはずだ。だが生きてる。なんでか一度空を飛びもう一度戻ってきた。


「失礼しました、フィールギー。いえ、次の選ばれし子」
「あん?」

何を言ってるんだ。
選ばれし子だの何だの。

「ああ、いや、待ってください。試すような真似をして申し訳ありません。もうやりません」

ナイフが落ちる音。
敵意を見せた私に怯んだせいか。神父様は両手を上げて無害をアピールした。
私としてはよく分からんことが洪水で起こってきて何から聞くべきなのかさっぱりなのだ。


「一つずつ説明していきましょうか」


「まずフィールギー、あなたの身体ですが・・・今日一日は妙に疲れ知らずだったでしょう」
「ああ」

自分でも驚くほどに。
どんなに重い物を持ってもどんなに駆け回っても何一つ鈍くならなかった。
むしろ限界を超えてもなおまだ走れるほどに。

「あなたは神により無限の力を得たのです。不老長寿と無限の英気。死なず、疲れず、病まずの身体に」

”不老長寿・無限の英気”
確か、降誕祭で謂われている話だ。つまり本当に選ばれたのは私ってことにでもなるのだろうか。
だとしたら相当見る目無いな。もっと選ばれていい奴はたくさんいるはずなのに。

「私がそれほど神に喜ばれてるとも思わないんだが」
「それは神のみぞ知る御心です。・・・きっとそれにも訳があるのでしょう」


「そして・・・あなたは怪我や病気によって死ななくなりました」


いきなりの話だ。
確かにさっき貫かれたのは完全に死んだと思ったが。
上がって下がってのあの光景が死のキャンセルだったのだろうか。

「一生にわたって健康になったのか?私は」
「もはや銃にも刃物にも、病気さえも通じません。あなたには」

疲れない、ってのもその一つか。
指を逆に曲げて平気だったこともおそらくその現象か。


「だがしかしもう一つお伝えしなければなりません。・・・あなたの寿命はあと60年と7日であることに」


おおっと。
まだ若いのに寿命を宣告されたぞ。でも結構長いな。70までは生きれるんだな。


「それだけ生きれりゃ結構なもんだと思う」
「そうでしょうかね。意外ともう少し長くと願ったりしてしまうものですよ」


・・・何か知ってるな、神父様。
というより呼び出したのが神父様だとしたら、もしかしたら知ってて当然なのかもだが。



「今からちょうど60年と1週間前、選ばれたのは私です」


あー、やっぱりか。
というか、今日じゃないか。ちょっと唐突過ぎないか。もう少し余裕持っていけなかったか。


「でも神父様はだいぶ年寄りじゃないか、老いてる身体でか」
「そう思っていたのなら」

神父様はすっ、と背筋が伸びていく。
弱々しい身体はピンと張り、普通の若い背筋へとなっていく。髭は外れて、その下から皺一つ無い肌が出てくる。
推定70歳の老人が20歳そこそこの男に変わる。



「この演技も完璧だったのですな、「娘さん」」
「・・・!その声、あんたは!」

神父様は声も変えていった。
しゃがれた声は低く瑞々しい声へ。それこそまさに成人男性の、そして懐かしさを呼ぶ声に。

「あの時の・・・!」
「あれから私のところに預けられたのは驚きましたよ、フィル」

見ればすぐに思い出す。
私の前に現れた。一切変わりのない姿で。あの時私を助けて送ってくれた憧れの人。



「ヒーロー」と呼ばれ街をずっと守ってきたあの人。



「私は・・・あなた達に懺悔しなければいけない」
「・・・知ってたんだな?」
「・・・ええ、黙っていて本当に申し訳ありません」

初めての懺悔を聞く仕事が憧れの人だなんて。複雑にもほどがある。
しかも対象は私自身で。


「私は20年、旅をした。そして結局はこの街に戻ってきた」
「その身体なら何だって出来ただろう。それでも街を守るために?」



「私には世界を変える度胸は無かった」



人を怒る役はどっちかというとシスター長だった。神父様はいつも何かとそれを赦して悟らせた。
もしかしたら、そういう事情もあったのかも知れない。

「そして何より・・・一人では限界な事がたくさんあった」



「あの日、私はひたすら後悔した。間に合わなかったこと、あなた達を助けられたはずだったことを」



その時、異変が起きた。
夜の最中なのに光が射してきた、神父様の真上に。まるでそれは・・・迎えが来たように。


「・・・時間が来たようです」
「お、おい待て!」

そうだ。
60年と1週間前、ってことはつまり今日が・・・。

「君達には友人をたくさん作ってほしい、一人では・・・間違いなく限界が来る」
「私だって、まだ、伝えたいことがっ・・・」


ガチャリと軽い金属音がした。


「これを使ってください、全てが書いてあります」
「んなことより!」

神父様は一つの鍵を手渡してきたが、そんなことは眼中にも無かった。

「臆病で・・・本当に申し訳なかった」

なんでこんな短いんだ。なんでこんな時間なんだ。
降誕祭が終わってから何時間もあったじゃないか。その時間を何で私に使ってくれなかったんだ。
いくら忙しくったって、自分が無くなるって分かってるんならやりようはあるはずじゃないか。

「私は!」

神父様の身体が少しずつ消えていく。霧に、塵に、なっていく。


「次の世代は任せました」

そんな悟りきった顔を向けられても困る。
私には、私の伝えたいことがまだいっぱいあるというのに。


「あんたのっ・・・!」



完全に全てが消えていった。神父様が何もいなかったかのように。
何の痕跡も残さずに礼拝堂はまた広くなった。
私一人だけしかもういなかった。




「・・・っ!」



卑怯だ、こんなのは。
言うだけ言って。私の気持ちも知らないで、あの人は消えていって。
度胸が無いのは世界を変えるだけだったのか。私に最後に伝えて、それで終わりにしようとしたんじゃないのか。




「近くにいたのなら言えよっ!バカ野郎がぁっ!」



届かない、私の声は。
届かぬと知ってても私は、万感の思いを込めて叫んでいた。






私に唯一遺された鍵。
急いで向かった。神父様のよく使う机の、引き出しの鍵。


悲しんでちゃいけない。それはまだ少し後だ。
今やるべきは私に何が託されたのか、それを知ることだ。

引き出しの中には一冊の古い本、そして傍らには分厚いものが入っている封筒。



”選ばれた者へ”との最初のページには書いてある。


読み進めていくと、どうやら神父様含めたこの体の持ち主達が継いできた日記のようだった。
教科書にある偉人達の名前もちらほら見られる。
最初の内は戸惑いや歓喜が感情豊かに綴られてるがだいたいは途中で絶望や怠惰を覚えている。



”君への注意点を述べる

・寿命は60年
 そしてそこから1週間。1週間で次の世代へ託す準備をする。世代を通じてその期間で不思議と縁が出来るのだ。
 

・一度死んでも装備は変わらなくなるようだ。どのタイミングで切り替わるのかはいまだによく分かっていない。
 だが新規で拾ったものはその場で落ちることが多い
 私の感覚だがおそらくは「神によって定められた最低限の装備」になるのであろう




他にも色々と書かれていたが、一旦は省略。
いいじゃあないか。今から60年。70何歳なら十分。


そして進めていく内に、後の方のページに別枠のような文面があった。

”フィールギーへ
黙っていてすまなかった。改めて言うが幼い君を助けたヒーローは私だ。
まさかと言っては失礼だろうが君が次に選ばれるのは驚きだった。
君の憧れの存在を崩したくはなかった。
許してもらえるとは思えないが、少しだけでも君を支えたつもりだ。

私は20年旅をして、この町を守り続けることに決めたが君はこの道を辿る必要は無い。
どう動くかは自由だ。

世界を巡るのであれば連絡先を記しておく。代々から続きこの事情も知っている人達だ。
頼りにするといい

アメリカ テキサス:000-XXX-00X
     ニューヨーク:
インド ニューデリー:
日本 東京:





シスター長には全てを話してある。もし旅立つと決めたら彼女にだけ話してほしい
そして出来ることであるのなら・・・君は君の内にも目を向けてほしい




「失望したか」という問いなら、今日一日のという方がでかいのだが・・・まあいいだろう。
今更どうこうもないし追求はしないでおこう。私の想像でこれ以上あのヒーローを貶めたくはない。
だがあの時間の少なさだけは延々と覚えさせてもらう。


隣に置いてあった封筒に入ってたのは金だった。
おそらくだが、海外に行く時用に使えってことだろう。


私は、何をすべきだろうか。
何もかもが急な話だ。ここに留まるにしても海外に行くにしても。
とりあえず今日一日は休んで、その後にこいつを読み耽って、それから考えよう。
ありとあらゆる人達に相談しなければなるまい。シスター長、父親、友人。



はるか遠くアジアには私達のような宗教と違い、多くの神が住まう土地があるという。
興味があるというのなら、まずそこかも知れない。

色々試して、色々やってみるとするか。




それからしばらくして。


今の時代はSNSってやつがずいぶん発達したのだと思った。
だいたいの奴が結婚したり就職してたり。そんな近況も遠くの国でも見られるのだ。


連絡先にあった日本の教会へと居を構えて。最初の2ヶ月は遊び回っていた。
今までの反動もあったのだろうが、夜でも光に包まれた異国はひたすら新鮮な刺激だった。
疲れない身体を大いに振るって昼夜問わず練り歩いた。
TVゲームにはまって寝ずにやり通したなんてのもザラだった。


それから3ヶ月。今度は揺り返しのように厳かに過ごしていた。
ステイ先の勧めであらゆる宗教施設を巡った。坊さんから話を聞き新たな歴史を見た。
神は私に何をすべきかを教えてくれることは無かった。


次に向かったのは各国で起こっている戦場だった。
全ての歴史の裏には争いがある。それを避けては通れなかった。射殺も刺殺も飢え死にも何十回とあった。
私の生きてきた世界がどれほど幸福だったかとよく分かった。
幾度となく戦場へと参加しているうちにコネクションもいくつか出来た。


私自身はその時点では直接戦いに参加することはなかった。
襲いかかってくる輩を無力化ぐらいはするが。

そうこうしてるうちに一つの最初の目標が出来た。
人身売買とか少年兵とかそういったものを潰そうと思った。


そこから私は銃を取り始めた。
明確に殺しはしてないが、こいつを生かしてさらに被害が出ると判断すれば私はあらゆる"更生"を試みさせた。
これも私の知らなかったことだが改造されてるような生物もいるし魔法じみたものを使うような奴もいた。


宗教の大きな目標である「世界平和」を目指すにはどうするか。
それは戦争をまず失くすこと。だがそれには莫大過ぎるほどの問題が絡む。
一つの紛争を終わらせたら二つの紛争が始まった、そんなこともよくある話だ。
だからまずは小さく。無駄に使われる”兵力”ってやつをまず削っていこう。
人手が少なくなっていけばおいそれと動かなくなる。ゼロにはならなくとも二十が十になればまずはいい。


だから、「無駄に使っていいとされる命」をまずは減らす。命を金で買えるようにしてはいけない。
人の価値を他人が決めてはいけない。
勝手に引き連れていかれ価値をつけられいいように使われる、そういうのはダメだ。
だからそういったものは潰す。自分の価値は自分で決めるべきだ。
勝手に借金して遊んで後からいいように使われるのは知らん。それは自分で選んだ価値だ。






私に与えられた無敵の60年。
私は神の存在を否定はしない、だが無条件で肯定もしない。
遠すぎる神より近くのヒーローだ。


知識を与えるのが神の所業だとしたらなぜそのようなことをする?
人間が膨大に知識を得ればそのうち神の存在は否定されるはずだ。
全ての現象が解明されてしまえばそこに神などいなくなるはずだ。


「神を試してはならない」とされているが、神もそろそろ試されたいのではないかとも思う。
全ての知識を得た上でいつまで自分は信じられるのか。
もしかしたらそれを試そうとしているのではないか。




だから、私がお前に試練を与える、だ。それが役割なんだろう。
私もまたお前が自分で課した試練の一環なんだろう。
ちょいと鈍った神通力を取り戻そうと。力試しのために私を遣いにして、この60年を過ごそうってハラだろう?
だったらやってやる。



私がお前の試金石だ。試してみろ。60年で世界は少しでも変えられるのか。
お前が望むのは「安定」か?「変化」か?答えを出してみせろ。




神よ、お前が私の「プレイヤー」だ。





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